記録-GN006

■2005年10月10日

夜(のような時間)、窓際に蝋燭を立てて書き物をしていると、その灯かりめがけてトビウオムシが入ってくることがある。この虫はおおよそ魚のような形をしていながら生涯水に入ることはなく、空中をツウツウと泳ぐように飛んで移動する。
普段ならば蝋燭に風除けを掛けるところ、今日はなんとなしに見守っていると、案の定虫は吸い寄せられるように火へ飛び込んだ。そのまま紙の如く燃え尽きてたちどころに空中に霧散してしまい、まるで魚の肉の焼けるような良い香りだけがしばらく部屋に残った。

記録-GN005

■1856年5月3日

ヴェールを被った狼の群れが、時折くるくると回転しながら、列をなし進んでいくのを見た。暇だったので(ここに来てからわたしが暇でなかったことなどあっただろうか)次はどの狼が回転するのか当てる遊びをした。しかしこれは非常に難しい問題であった。

狼は、シルクハットの羊を追うのだろう。いつの時代もご苦労なことである。

記録-GN004

■2016年5月29日

いつのことだったか、翡翠の置時計が流れ着いた。 ひとつの翡翠の塊から削り出された彫刻に時を刻む機構は備わっておらず、もう何百年も同じ時間──10時17分を指したままだ。時計としての役割を持っていない以上、置時計と言うよりは時計型の置物と言った方が正確かもしれない。
今日も翡翠の置時計は、有象無象の愛すべきガラクタ達と共に静かに佇んでいる。 今朝気付いたのだが、その文字盤は10時18分を示していた。

記録-GN003

■1924年7月19日

白鷺は飛び去っていった。

記録-GN002

■1924年7月17日

鳥捕りが白鷺を置いていった。
しかし、砂糖菓子の白鷺だったもので、散水機にやられて脚が片方溶けてしまった。流れ出た蜜から氷砂糖の花が咲き、蜂が歓んでその周りを盛んに飛び交っている。飴で新しい脚をつけてやれるだろうか? 後程試してみるとしよう。

記録-GN001

■1832年3月22日

今日は良い日だ。面白い客が来た。
その体は硝子に似た物質で形成されている。それが微細な空気の泡を含んでいるので、ほんのり白く光って見えるようだ。
彼だけではない。彼等の世界はすべての物が硝子で出来ており、脆く透明なのだそうだ。何でも先日、月と太陽(無論これも硝子製である)が衝突してしまい、それでこちらへ来たらしい。
その時に刺さったという、彼の右目を貫く月の欠片を頂戴した。出来れば体の一部も貰えないかと交渉したが、そちらは却下された。
月の欠片は複雑に光を乱反射し、八重にも十重にも見える。非常に美しい。この窓からよく見える場所に埋めよう。

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